フォーカシングって何?

 

99/11/30upload


 ジェニーは、自分のことを話そうとすると、いつも、喉が詰まって苦しい感じになりました。大事な場面になればなるほど、その話まった感じはひどくなります。就職の面接や授業の発表は苦痛でほとんど不可能なほどでした。この喉が詰まる感じを何とかしたいと思って、何人もの心理療法家を訪ね、さまざまな技法を試しましたが、むなしい努力でした。ジェニーは自分のことを「自己被壊的で、自虐的で、いつも自分をだめにしている」と自己診断していました。

そんな時、ジェニーはフォーカシングのことを耳にしました。フォーカシングというのは、やさしい思いやりをもって先入観なしに自分のからだに耳を傾けるというものらしい。そうやって自分の内面の声を聴くことで、多くの人が深みのある長続きのする変化を経験しているとのことです。

彼女はちょっと信じられない気持でした。それではあんまり簡単すぎる感じです。でも、彼女は何か効果があることをしたいと必死でしたから、ものは試しにやってみることにしました。

ジェニーが試す気になったのは、一つには、フォーカシングが心理療法的な技法ではなく、練習できる技だからでした。多くの心理療法家がフオーカシングを治療に取り入れていますが、セラピストのところに行かなくても、ジェニーはフォーカシングを学ぶことができそうです。喉が詰まって苦しい感じを治すだけでなく、自分の生活のいろいろな問題について、誰にもお金を払わないで、自分一人でできるコツを身につけるという発想が気に入りました。

ジェニーが私のところにフォーカシングを習いに来て、自分の状況を話してくれた時、私はフォーカシングが彼女の役に立つとはっきり感じました。私は、何年もの間、何百人もの人にフォーカシングを教えてきましたが、ジェニーの例は古典的とも言えるものです。彼女のからだはすでに彼女に語りかけているではありませんか。彼女は、ただそのからだが伝えるメッセージを聴く方法を練習すればいいだけです。

私はジェニーに、今この場で、その喉が詰まって苦しい感じがありますかと、尋ねました。 「ええ、感じられます。今ここのところにありますよ。あなたに新しい技法を教えてもらおうとしているので、うまくやらなくちやあって感じてますから。」

それはどんなふうな感じなのか言えますかと尋ねました。彼女はちょっと驚いた様子で、 「喉が詰まる感じに決まってるじゃないですか」と言いました。そこで、その感じのところにもう一度一戻って、 「喉が詰まった」という言い方がその感じにぴったりかどうか確かめるようにと言いました。

彼女はじっと考えているふうでした。そして、 「実は、それよりも、手でぎゅっと締めつけているような感じです」と、ゆっくりした調子で答えました。

すでにジェニーは目を閉じて、からだの内側に注意を向けて集中しているようでした。私は、その、手でぎゅっと締めつけているような感じに向かって、 こんにちは」とやさしく挨拶してみられるかと提案しました。 「それに向かって、ただ、こう言ってください。 『ええ、あなたがそこにいるのを知ってますよ』と。

このような態度は、ジェニーにとってまったく新しいものでした。 「私は今までそれに目を向けるなどということをしたことがありません。どうにかしてそれをなくしたいとばかり思っていましたから。」 ですから、この新しい態度を実行するのには少し時間がかかりました。でも、彼女がそうしてみたら、からだがほぐれて楽になるのがはっきり感じられました。 「あの感じはまだそこにあるんですけど、でも、もう苦しくなくなりました。今はもう私の気を引くことができたので、私を苦しめなくてもいいみたい。」

次に、私はジェニーに、今感じているその感覚と、友だちと並んで腰かけているようなつもりで、一緒に座っている場面を想像してみるよう勧めました。思いやりのある、興味深い態度で、この友だちはどんな気持でいるんだろうと思いながら一緒にいる時の感じです。

ジェニーは何分か黙ったまま目を閉じて感じ続けていました。それから、驚いて目を開けました。

「まあ、それがこんなことを言うなんて夢にも思わなかったわ、ほんとうにびっくりしたわ。」

私は、話したくなったら続きを話してくれるのがわかっていましたから、黙って待っていました。

しばらくすると、また話し始めました。 「それが言うには……それは私のことを心配してくれてるって言うんです。それは、私が失敗をしないように守ってくれてるだけなんだって。」

「じゃあ、それは今はどんな感じなんでしょう」と、私は尋ねました。

「喉が詰まった感じも締めつけている感じも、何もなくなりました。喉は開いて楽な感じになっています。身体中に暖かくていい感じが拡がっています。ほんとうにびっくりです。こんなふうに変わるなんて思ってもみませんでした。」

 

フォーカシングって何

フォーカシングとは、からだを使って、自己の気づきを促し、こころを癒していく、独特のプロセスです。それはひどく単純なことです。あなたがどんなふうに感じているかに注意を向けて、その感じと会話をするのです。その会話では、あなたはほとんど聴き役にまわります。フォーカシングは、生活の中で起こっている事柄について、からだの内側で何かを感じるという、おなじみの経験から始めます。立ち上がって話し始める時、胃のあたりがざわざわする感じとか、大切な電話をかけようとすると胸がきゅ―っと締めつけられる感じなど、私たちが「フェルトセンス(感じられた意味感覚こと呼んでいるものを、――何らかの意味をもっている身体感覚のことですが――あなたはすでに経験しているわけです。

それでは、胃がざわざわする感じとか、胸がきゅ―っと締めつけられる感じとか、喉が詰まった感じがする時、あなただったらどうしますか。私たち皆と同じようだったら、それをなくそうとするでしょうね。 「どうして一番大事な時に限ってこんなばかみたいな感じになるの」といった憎まれ口をたたいたり、 「私がもっとできた人間だったら、こんなふうに上がったりしないのに」と自分をけなしたり、あるいは、深呼吸を繰り返すとか、 一杯飲むとか、たばこを一服吸うかもしれませんね。

もし、あなたがフォーカシングを知らなかったら、そこにある感じに耳を傾けるとか、その感じがあなたに話しかけるようにしむけるというようなことはしないわけです。

でも、あなたが感じているその感じのほうから話しかけてもらうことができたとしましょう。そうなれば、深い深い部分、豊かに満ち満ちている部分が開かれて、あなた自身がさらに深く豊かに変わっていくことになるでしょう。こころもからだも全部ひっくるめた自分全体の感じ、自分という全存在に備わっている深く豊かな部分が開かれるということです。そして、さらに、その感じに耳を傾けるならば、それは楽な感じにほぐれてきて、あなたがしていることをもっとはっきりさせて、迷わずまっすぐ進めるようにしてくれます。生活のこの深いところであなたを驚かせたり喜ばせたりしながら、もっともっと前向きに進むようにしてくれると思います。

フォーカシングは、このように、やさしく思いやりを込めて、こころから受けとめてあげる姿勢でからだに耳を傾け、内なる自己があなたに伝えるメッセージを聴いていく独特のプロセスです。

からだの内側に貯えられている知恵に敬意を払い、からだを通してあなたに語りかけてくる微妙なレベルの気づきを知るようになるプロセスです。

からだに耳を傾けることで、洞祭、身体のほぐれ、生活の前向きの変化が得られます。あなたは自分のことをもっとよくわかるようになり、もっと快適になり、そして、生活をもっと自分が望むように創造していくよう行動するようになると思います。

 

フォーカシングの発見

一九六〇年代の初め、シカゴ大学のユージン・ジェンドリン教授は、 「なぜ、心理療法で効果がある人と効果のない人がいるのか」という疑問から、実証的研究を始めました。彼と同僚の研究者たちは、何百という心理治療場面の録音テープを検討しました。

数多くの異なるセラピストとクライエントの治療面接の、初回から最後のセッションまで全過程を録音しました。そのうえで、セラピストとクライエント双方にその治療がどの程度成功したかを尋ね、別に心理テストを行って有効な変化があったかどうかを測定しました。セラピストの答えとクライエントの答えと個別に行った心理テストの結果の、三つ全部の評定が一致しているものだけ研究資料として採用しました。

その結果、録音テープは成功した事例と成功しなかった事例という、二つのグループに分けられました。そして、研究者たちは、テープを比較して、成功と失敗の違いを決定づけるものが何かを調べました。

まず、その二種類のテープのセラピストの部分を聴いていきました。常識では、セラピストのやり方次第で治療が成功するかしないかが決まると考えられています。確かに、成功した治療では、セラピストはより共感的で、より率直で、より受容的で、より鋭いようなのですが…… しかし、実際には、セラピストの行為からは何ら有意な差は見られませんでした。どのテープでも、セラピストたちはおおむね似たようなものなのです。セラピストたちは最善を尽くしています。それでも、よくなっていくクライエントもいれば、よくならないクライエントもいたのです。

次に、研究者たちは、テープのクライエントの部分を聴いていきました。そこのところで、何とも魅力的な、とても重要な発見をしたのです。治療が成功だったクライエントと失敗だったクライエントには違いがあったのです。そして、その違いは、最初の一,三回の面接でわかるのです。クライエン卜の部分でです。この違いが何だったとしても、それは、成功したクライエントが治療を通して覚えたものではなさそうです。それは、すでに最初から、治療を受けにやってきた時から、していたこと、できていたことだったのです。

ジェンドリンと共同研究者たちは、どのテープでも、最初の二回の面接を聴いただけで、その治療の成功を予測できるという驚くべき発見をしたのです。クライエントの話し方を聴いていれば、その治療が最終的に成功するかうどうかを実際に言い当てることができたのです。

では、それはいったい何だったのでしょうっ研究者たちがテープで聴いたもの、その治療が成功するかどうかを予測させてくれたものは何なのでしょう。

彼らが発見したのは、こういうことだったのです。治療が成功したクライエントは、面接のどこかで、話し方がゆっくりになって、言葉の歯切れが悪くなり、その時に感じていることを言い表す言葉を探し始めます。そのテープを聴けば、何かこんなふうに言っているのが聞き取れるでしょう。

「うーん、どう言ったらいいんでしょう。ちょうど、ここのところにあるんだけど。それは……あの―‥…それは……怒りっていうのとはちょつと違うつし……う―ん。」 あるいは、クライエントは、しばしば、その感じをからだで感じるとも言います。例えば、 「それは胸のここのところにあるんです」とか、 「胃のあたりが、こう、何か変な感じがするんです」というような発言です。

つまり、成功したセラピーのクライエントたちは、面接の過程で直接からだで感じている、漠然とした、言葉では表現しにくい身体的な気づきがあったのです。それとは逆に、セラピーがうまくいかなかったクライエントたちは、面接の間ずっと言いよどむことなくすらすらと話しています。

「頭で考えるレベル」にとどまっていて、からだで感じることがありません。最初はどう言っていいかわからないようなことをまず直接からだで感じてみるということがないのです。問題について、いくらいろいろと分析しても、説明しても、考えても、あるいは涙を流しても、セラピーは結局はうまくいきませんでした。

ユージン・ジェンドリンは、治療を成功と失敗とに分けることになったこの違いを、何とか技法として教える方法を見つけたいと決心しました。彼自身、治療者としてただ手をこまねいて、クライエントのある者はうまくいき、ある者はうまくいかないという状況をだまつて見ていたくはありませんでした。どんな人にも役立ちたかったのです。

そして、ほんとうにジェンドリンは、この強力な、効果的にこころを癒す技を教える方法を見つけ出したのです。彼はそれを「フォーカシング」と名づけました。

最初、彼は、フォーカシングをただ心理療法がうまく進むために役立つ方法としか考えていませんでした。しかし、その後、それ以外の目的でフォーカシングを教えてほしいと頼まれるようになりました。心理療法の代わりにセルフ・ヘルプ(自己援助)の技法として使うとか、決断をするためとか、創造的な仕事に役立てるといった目的です。

一九七八年に『フォーカシング』と題する本を出版しましたが、それは何万部という売れゆきでした。フォーカシングヘの関心が非常に高まったため、ジェンドリンはフォーカシング・ワークショップを数多く催すようになり、また、世界中に広がっているフォーカシング愛好者のためのネットワークを支援するためにフォーカシング研究所を創設しました。 (このようなネットワークに連絡を取りたい方は、この本の最後の「フォーカシング情報」のところに詳しく載せましたので、ご覧ください。)

フォーカシングは人々が自然に身につけている技能ですから、発見されたのであって、発明されたものではありません。それは、人が好ましい方向に変化している時にしていることを観察する中で発見されました。フォーカシングをする能力は誰もが生れながらに備えているものです。私たちは、その瞬問瞬間に自分がどう感じているかがわかる能力をもって生まれてきます。

しかし、ほとんどは、子ども時代にあるいは文化の影響で、傷つき疎外される経験を経て、からだや感情への信頼をなくしてきています。ですから、フォーカシングを学習しなおす必要があるのです。

 

アン・ワイザー・コーネル

「やさしいフォーカシング 〜自分でできるこころの処方〜」

(原書タイトル "The Power of Focusing")
第1章より pp.7-15

大澤美枝子・日笠摩子 訳(C)
諸富祥彦 解説

発行:コスモスライブラリー
発売:星雲社
ISBN4-7952-2374-2

定価1,800円+税
日本フォーカシング協会会員割引あり

この著作の本ホームページへの引用は、
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